前回の記事で、株主優待を取得するための最低条件は、「証券取引口座」と「株を買うためのお金」とご紹介しましたが、今回の記事ではさらに一歩進んで、株価変動リスクをゼロで株主優待を取得する方法、「クロス取引」について、信用取引の仕組みや取引区分を交えてご紹介します。
▼前回の記事
株主優待生活をはじめよう!初心者必見!株主優待の基礎知識ともらい方。権利確定日や権利付最終日、優待品の種類まで徹底解説。
また、クロス取引は「つなぎ売り」とも「タダ取り」とも呼ばれることがありますが、後者の「タダ取り」はウソです。必ず売買手数料や貸株料などのコストが発生しますのでタダで取得できることはありません。
タダ取りは、株価の変動による譲渡損失を回避できるという意味で、クロス取引では、その他のさまざまなコストが発生する点に、まずはご注意ください。
クロス取引とは
一口に「クロス取引」と言っても、証券業界においてはさまざまなケースがありますので、この記事では、個人投資家が市場で行う売り買いの注文に限定して話を進めます(一般的なネット証券を通した売買のこと)。
クロス取引とは、ある銘柄に対して、同株数の買い注文と売り注文を発注して約定させることです。
この際、通常は、寄付前に成行で発注することによって同じ株価で約定します。寄付後、株価は変動しますが、同値で買いも売りも持っているので損失は発生しません。
つまり、株価1,000円の銘柄を100株クロス取引した場合で株価が900円になっても、「買いは-10,000円」、「売りは+10,000円」となりますのでダメージ無しということです。実際に、口座内の画面表示もこのようになります。
では、クロス取引を行うためには何が必要なのか。この点について、次項で詳しくご紹介します。
クロス取引を行うために必要な信用取引とは
まず、クロス取引を行うために必要な条件を列記します。
- 証券取引口座
- 証券取引口座内の信用取引口座
- 信用取引の知識
- 口座に入金するお金(保証金)
特に大事なのは、「信用取引口座」と「信用取引の知識」です。「口座」は当たり前ですが、「知識」も絶対条件です。
知識がないまま参加すると大きな損失を出してしまう可能性があります。例えば、数千円の株主優待を取得するために数十万円の損失を出したりとか…私は実際に何度も見かけたことがあるので大げさな話ではありません。
ただ、注意すべき点はわずかです。株主優待のクロス取引市場に参加する数千人(数万人?)の方々が、この「怖さ」を理解した上で参加していますので、誰でもリスクを回避できます。
ではまず、最初の難関である「信用取引口座」の開設について。
信用取引の口座開設には審査がある
信用取引は、預けた保証金の3倍程度の金額まで売買できる取引方法です。
例えば100万円を委託保証金として口座に預けている場合、現物取引では100万円までしか購入できませんが、信用取引を使うと300万円までの購入が可能となります。
つまり、自分の資産以上の売買が可能となるため、リスクもその分増加するわけです。
他にも信用取引を行う場合、貸株料、逆日歩、信用事務管理費などの費用が発生するケースがあるため、証券会社側でも、そういった仕組みをちゃんと理解している顧客かどうかを確認する必要があります。
これが「審査」を行う理由です。
信用取引口座の審査基準とは
審査にはさまざまな項目がありますが、この記事では、審査で最もはじかれることが多い項目に関して、簡単にご紹介します。
金融資産
各証券会社で異なりますが、概ね100万円~300万円の金融資産を求められます。
信用取引は、自己資金以上の取引が可能なため、損失が出た場合でも、その人に追加で入金できる余力があるかどうかを確認しているものと思われます。
投資経験
私が、審査に落ちた人を見た中で、最も多いのがこの「投資経験」の項目です。
こちらも各証券会社によって多少の違いはありますが、概ね、信用取引の取引経験、または、「半年以上」もしくは「1年以上」の現物株式の取引経験を求められます。
電話によるヒアリング審査
私は現在、5社の証券会社に信用取引口座を開設していますが、その中で1社だけお電話をいただいて口座開設に至った証券会社があります。
他の証券会社ではなかったのにここだけ電話があった理由は、おそらく、この証券会社で現物株式の取引経験がなかったからではないかと思われます。
「電話があるかもな」と予測できていたので、電話をいただいてすぐに、自分がもっている信用取引の知識を並べ立てたところ、審査はわずか1分ほどで終了しました。
先方からも「疑って申し訳ない」といった感じが伝わってきたので、逆に好印象な状態で、事なきを得ました。
信用取引の取引区分
信用取引とは、上記の通り、証券会社から文字通り「信用」を得ることによって可能となる取引です。
証券取引口座を保持していることが前提で、委託保証金として最低でも30万円を預ける必要があります。このお金が担保の役割を果たすことによって、証券会社からお金を借りて、株を買ったり売ったりすることができます。
また、信用取引には、大きく分けると2つの種類が存在します。「制度信用取引」と「一般信用取引」です。
株主優待でクロス取引を行う上で、最低限の把握が必要な違いを簡単にご紹介します。
制度信用取引
- 売り買いできる銘柄は証券取引所が選定。
- 「売り」ができる銘柄は約2,100銘柄(2018年末)。
- 逆日歩が発生する場合がある。
- 金利・貸株料率が一般信用に比べて低い。
- 返済期限が原則6か月に定められている。
一般信用取引
- 売り買いできる銘柄は各証券会社ごとに独自選定。
- 「売り」ができる証券会社は少ない。
- 最も多いカブドットコム証券には約2,100銘柄(短期560銘柄含む・2019年6月)。
- 逆日歩は発生しない。
- 金利・貸株料率が制度信用に比べて高い。
- 返済期限は証券会社によって異なる(短期・長期・無期限など)。
クロス取引にも制度信用取引と一般信用取引の2種類がある
クロス取引は、信用取引を利用した売買手法です。そのため、信用取引の種類が2つ存在するのであれば、当然、クロス取引も2種類存在することになります。
どちらも、株価の変動リスクを排除できる点については同じですが、株主優待の取得のためにクロス取引を利用する場合には、圧倒的な違いが現れます。
どちらが優れているかと言われたら一概には言えませんが、「低リスク」に焦点を当てた場合は、一般信用取引を利用したクロス取引に軍配が上がります。
ここでも、その違いを簡単にご紹介します。
制度信用取引を利用したクロス取引
- 銘柄数が豊富で、ほとんどの場合、権利付最終日でのクロス取引が可能なので、事前にクロス取引を行って、長い日数分の貸株料を支払わなくてよい。
- その反面、権利落ち日にならないと株不足だったのかどうかわからないので、大きな逆日歩を支払うことになる場合がある。
- 極端な例では、逆日歩日数や株数によっては、数万円から数十万円の逆日歩金額になることも。
- これが冒頭でも記載した「知識がないまま参加すると大きな損失を出してしまう『怖さ』」です。
一般信用取引を利用したクロス取引
- 銘柄数や在庫数が限られている上に、人気がある銘柄には売り注文が殺到するため、クロス取引できない場合も多い。
- 上記の理由で事前に(在庫がなくなる前に)クロス取引を行うと、長い日数分の貸株料を支払うことになる(ロングクロス)。
- 極端な例では、人気の「すかいらーくHD(3197)」や「ブロードリーフ(3673)」などでは、5千円~1万円の貸株料を支払うことも(1,000株クロスの場合)。
- その反面、逆日歩は一切発生しないので、コストを自分自身で限定できる。
2種類のクロス取引のまとめ
上記の特徴から、
- 初心者または貸借倍率などのデータを、能力または時間的な問題で読み取ることができない人は「一般クロス」
- 数々の経験を積み重ねた優待マスターレベルの人は「制度クロス」もあり
と考えるのが一般的ではないでしょうか。ただ、優待マスターはこの記事読まないと思いますが。
おわりに
今回の記事は、株主優待を株価変動リスクゼロで取得するための「クロス取引」、クロス取引を行う上で必須となる「信用取引」に焦点をあてた内容でした。
しかし、記事中に何度も出てきた「怖さ」の対象である「逆日歩」に関しては、一切記述できていません。
制度クロスを行うつもりがなくても、あるいは、株主優待の取得ケースでなくても、「逆日歩」の仕組みは、信用取引を行う上では必ず知っておくべき事案ですので、あらためて詳しくご紹介する予定です。
▼記事を作成しました
逆日歩を制する者は株主優待を制す。逆日歩日数の調べ方や金額の計算方法、発生をある程度予想して避けるための6つの方法など。
※記事の内容は、2019年6月が基準となっています。内容が古くなった場合、最新情報は各自でご確認ください。
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